インタビュー写真を撮るときに私が注意しているこれだけのこと 〜「カメラを持っている」は「写真が撮れる」ではない
「カメラを持っているので、写真が撮れます」「プロ仕様の一眼レフを用意しています。写真もお任せください」
ライターのプロフィルやホームページ制作会社の案内でしばしば見かけます。全員が全員とはいいませんが、私の勘違いでなければ、「カメラを持っている」イコール「写真が撮れる」と思っているのではないでしょうか。
そこで、新聞社の写真部員(報道カメラマン)も経験した私が、インタビュー写真やポートレートを撮るときに、どれだけのことを気にしているか書き出してみます。バストアップ(みぞおちあたりから上)を想定しています。
目次
私がインタビュー写真やポートレートに使うカメラとレンズ
最初にカメラとレンズです。かつてはニコンを使っていましたが、4、5年前にやめました。今は富士フイルムのミラーレス機を使っています。
バストアップに適したレンズは中望遠の単焦点
レンズは単焦点の中望遠の一択です。具体的には、APS-Cの50mm(フルサイズ換算75mm相当)、F2です。
そう簡単にいい切れるものではないらしいですが、標準レンズ(50mm相当)は「画角が人間の目に近い」とされます。とりあえずこれを信じるのならば、中望遠レンズは「集中して見つめたときの画角」になるようです。
詳細は省きますが、そのため「バストアップを撮るのには、中望遠の画角が最も自然な広がり方」とされます。「一択」になる理由です。
私はあまり気にしないのですが、ほかにも「相手に話しかけ、リラックスさせるのに、ちょうどいい離れ具合になる」を中望遠を選ぶ理由にする人も多いようです。
標準ズームは予備として持っていくだけ、使わない
標準ズームは使いません。「なにを撮るかで、自動的に何mmのレンズにするかが決まる。焦点距離が変えられるズームでは、その手順がルーズになる」「F値が大きい。だから、被写界深度も浅くできない(背景がぼかせない)」が理由です。
しかし、必ず持っていきます。故障、落下、水没などなどカメラボディーやレンズにはどんなトラブルがあるかわかりません。インタビュー写真やポートレートには少々使いにくくても、予備ならばぜいたくをいう必要はないでしょう。
カメラボディーの性能は気にしない、APS-C機で十分
カメラボディーの性能はあまり気にしていません。APS-Cよりもフルサイズのほうが画質では有利なのは知っていますが、APS-C機を愛用しています。
15年前20年前のまだイメージセンサーも受光素子も発達途上のときならば、フルサイズも必要だったかもしれません。しかし、電子部品の発達は凄まじく、Webで使う写真程度ならば大枚はたいて高級カメラを買う必要はありません。
カメラボディーよりも重視しているのは、撮影後のPhotoshopによるレタッチです。どんなに高性能なカメラを使っても、そのままでは「自分が見た光景だ」「自然な感じになっている」とはならないと思っていますので。
撮影時の設定はカメラ任せにしない
「カメラを持っていますので、写真も撮れます」の人たちの大半は、ほとんどの設定をカメラ任せのオートにしているのではないでしょうか。まずはそこから抜け出さないと、写真やカメラへの理解は始まらないでしょう。
背景をぼかしたいので露出はF2〜F4
バストアップといっても、いくらかでも背景が入る場合もあります。その背景はぼかしたいので、被写界深度は浅めになるよう、露出はF2〜F4(フルサイズ機のF2.8〜F5.6ぐらいに相当)あたりです。このくらいになると、顔面の中でもぼけるところができるのでかなり気を使います。
ピントの位置の鉄則は、カメラ(撮影者)に対して近い方の目ですね。今どきのカメラ、特にミラーレスは設定さえしておけばオートフォーカスでも「近い方の目」に合わせてくれます。ただ、私はあまり信用していません。「A&M」の設定にしています。つまり、オートフォーカスでピントが合ったのを、さらに自分の指で微調整します。
シャッタースピードは被写体ブレを防ぐために125分の1秒以上
シャッタースピードは最低でも125分の1秒です。それ以下になりそうならば、感度を上げて対応します。レンズにもボディーにも手ブレ防止機能が入っていない機種を使っているのも理由です。それ以上に大きいのは被写体ブレ対策です。
笑顔など人がいい表情をするときは、体も動きがちです。60分の1秒やそれより遅いと、被写体ブレがありえます。
背景、光源の位置と色合いなどなど、チェック項目はたくさんある
やることはたくさんあります。漠然といえば、「周囲の確認」と「その場の光を読む」です。
体の嫌な部分に線が来る「串刺し写真」「首切り写真」は要注意
窓を背にするなど逆光は要注意です。あと、背景はできるだけシンプルにします。書棚などの直近に立つのもNGです。せっかく被写界深度を浅くしても、背景がぼけません。
撮るときに気にする人が少なく、実際にWebでよく見かけるのが「串刺し写真」と「首切り写真」です。縦の線が頭のてっぺんに降りてきているものが前者、ちょうど首の後ろに横切る線があるのが後者です。窓枠やホワイトボードの縁、大型の観葉植物の幹などがよくこれらの線になっています。見る人を落ち着かない気分にさせるほか、いったんそちらに注意がいってしまうと、人物の顔になかなか視線が戻ってはきません。
光源の角度は左右45度、上から45度が標準
光源の角度と質も気にします。
あまり厳密に考える必要はありませんが、光源は撮られている人から見て、左右どちらかの45度、上方向45度にあるのが標準です。とはいえ、光源はひとつとは限りません。また、あまりに一方向からの光が強すぎると、顔に濃い影ができます。
撮影のノウハウ本では「人物写真は半逆光がおすすめ」とする場合も見かけます。
うまくはまれば、印象的な写真になるでしょう。しかし、今回はインタビュー写真で考えています。印象的よりも明快さを重視します。
また、光源が室内の照明だと、よく色かぶりがします。白いものが白く見えないのです。これで失敗しているのをWeb上でよく見かけるのは、カフェなどで撮ったスイーツです。白いお皿や白いクリームなどが黄ばんで、スイーツもおいしく見えません。
近年のカメラは、これらの色を決める「ホワイトバランス」の調整もオートでそこそこのところまで大丈夫になってきました。しかし、まだ完ぺきではありません。また、補正しすぎるとその場の雰囲気が消えてしまう場合もあります。
「人間の目で見てではなく、カメラの目で見てどういった影や色になるか」を“翻訳”する習慣が必要です。その上で、“さじ加減”を考えて補正しなければいけません。
暗くなくてもストロボやLEDライトは必需品
カメラが高感度までカバーするようになり、ストロボを持っていなかったり、カメラに内蔵されていても使わなかったりといった人が増えました。しかし、ストロボが必要なのは暗いときだけではありません。
先ほどの、「影が強く出過ぎる」「色かぶりする」といったときにも必要です。使い方はそれだけで一冊の本にしないといけないので、省略します。
ただ、ひとつだけ、大半の人にとって初耳になりそうな使い方を紹介しておきます。「キャッチライトを入れる」です。「キャッチライト」とは瞳のなかで反射している小さい光です。これがあると、目が輝いているように見え、表情が生き生きとします。
また、かつてはビデオ用と考えられてきた撮影用LEDライトもカメラ(スチールカメラ)にも使いやすい製品がたくさん出てきました。
「パワーは小さい(光量が少ない)。しかし、ずっと点けておけるので、写り方を想像しやすい」がストロボとの違いです。
相手の表情を引き出すのも撮影者の仕事
インタビュー写真やポートレートの撮影は一般の人にすれば、それだけで緊張の原因になります。声も掛けずに相手任せでは、いい表情の写真も撮れません。
水平・垂直は2度3度傾いているだけでも見る人が不快になる
特別な狙いがない限り、前後のあるものは前側を広めにとるのが原則です。人間の顔だと、鼻が向いている方向です。
また、水平・垂直は2度3度でも傾いていると、不安定な構図になり、見る人も不安・不快になります。といっても、「2度3度」がどの程度のものか、想像できない人が大半でしょう。SNSでは10度20度傾いている写真が平気で出てきます。
ただ、撮るときにコンマ何度まで合わせるのはなかなか困難です。実際のところ、私も撮影後にトリミングで合わせています。
目線の方向もこちらで決めるときがある
目線をどこに持ってきてもらうかも悩ましいところです。最初から横顔を狙うのならばまだいいのです。「正面」の写真といっても、レンズをまっすぐ見られるときつい写真になってしまう場合があります。よくやるのが、拳を上げて「ここを見てください」です。それで、わずかにレンズから視線を外してもらいます。
ポーズもなしにインタビュー写真は済ませられない
インタビュー写真やポートレートでは、何らかのポーズが求められるのが一般的です。同時に「ポーズ写真」の方がいいわけです。
しかし、現実には「顔も体もこわばって、直立不動がそのままイスに座っているだけ」のインタビュー写真もよく見かけます。
ポイントは手です。私の場合、撮影開始時には必ず「手は楽にしてください。できれば、顔の前に意識的に持ってきてください」とお願いします。それでもなかなかうまくはいきません。秘策はあるのですが、私の企業秘密です。ここでは公開できません。
写真は撮影後のレタッチをしないと完成しない
しばらく前、X(旧・Twitter)で「写真も撮れます」というライターさんの「あなたは写真を“撮って出し”で納品しますか? レタッチしてからですか?」とのX投票(アンケート)が流れてきました。
唖然としました。板前さんらに「あなたは魚を海から上がったままでなべに入れますか? それとも鱗や内臓は取り除きますか?」と尋ねるようなものです。
写真を完成させるには、レタッチを避けて通れません。レタッチでも具体的になにをやるかは「一冊の本にしないといけない」ので省略します。
ただ、ひとことだけ加えておくと、私は撮影時のデータ保存には、よくあるJPGではなく、あとからの色調補正などのやりやすいRAWを選んでいます。
タイムラグへの対応とアングルの予想は体で覚えないといけない
今まで真面目に写真に取り組んだ経験のない人にすれば戸惑ったかもしれませんが、その気になりさえすれば、ここまでの話は比較容易に実践できるのではないでしょうか。どちらかといえば、知識だけで解決しそうなことばかりです。
ところが、「体が覚えないとなんともならない」部分が別にあります。
頭で「今だ」と判断してから、シャッターが切れるまでには0.25秒かかる
写真は、撮影者が「今だ」と思ったその瞬間が記録されるわけではありません。
「頭のなかで『シャッターボタンを押す』と決断する」「指が動き出して、機械が反応するところまでシャターボタンを押し込む」「そこから機械が動き出し、実際にシャッターが切れる」を経ないと写りません。慣れた人でも、0.25秒程度かかるそうです。
野球でピッチャーの投げた時速150キロの速球がキャッチャーに届くのに、0.4秒ほどかかります。「0.25秒」の人でもマウンドからの半分まで来る前に、慣れていなければピッチャーの手からボールが離れた瞬間ぐらいに「今だ」と判断しないと、バットとボールが当たった瞬間は撮れないわけです。
初心者が表情のある人物写真が撮れないのも、これでかなりのところ説明がつくかもしれません。いい表情になるのを予感して、0.25秒前かそれよりさらに前にシャッターを切る判断をしないといけないのです。
ファインダーをのぞく前に光景が予想できないと、その光景は撮れない
もうひとつ、「体が覚えないとなんともならない」のが、「その位置に行ってファインダーをのぞかなくても、どう見えるかが想像できる」能力です。
「あの位置までいって、何mmのレンズでのぞけば、メインの被写体はこういったように見える。背景はこうなる。光の状況はこう。これは、いい写真になるぞ」とアングルなどの予想ができるからこそ、そこまで体を運び、写真もものにできます。
一方、下手な人の場合は、とにもかくにもファインダーをのぞき、ああでもないこうでもないとズームをいじったり、ファインダーから目を離さないまま歩いたりしないでしょうか。ファインダーを通して見ないと光景がわからないし、見てもまだわからないのです。
風景写真やスポーツ写真はまた別のノウハウがある。
かなり長い話になりました。しかし、それでもかなり端折りました。別にページを作らなければいけない話ばかりで、わかりにくそうな言葉もそのままです。「こういうふうに撮りましょう」までは書けませんでした。「どれだけのことを気にしているか書き出してみます」止まりです。
また、これらはあくまで、バストアップ程度の人物写真を撮るときだけの話と考えてください。背景まで入れるときもあれば、まったく別に風景写真などもあります。スポーツ写真はさらに別の世界です。
いずれの世界も、たとえ持っているのが「プロ仕様の高級一眼レフ」でも、腕がなければたいして役には立ちません。
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