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私がニコンのカメラをおすすめしないわけ〜電子部品の勝負でキヤノンに連戦連敗

NIKON D90

私がカメラマンであり、それも、元は全国紙の写真部員(報道カメラマン)だったのを知ると、こう尋ねる人もいます。「あれ? ニコン(Nikon)やキヤノン(Canon)は使っていないんですね」「カメラはどこのメーカーがいいんでしょうか?」

決まって答えるのは、「おすすめは富士フイルム(Fujifilm)です。私も気に入って使っています。でも、あれこれ迷うならばソニー(Sony)でいいでしょう。この先を考えると一番無難です。ニコンはやめておきましょう」。今回は主にこのニコンについてお話しします。

報道の世界では圧倒的だったニコン

かつては「プロカメラマンが使うのはニコンかキヤノン」とされていました。これは一般にも知られていたので、元は全国紙写真部員の私がそのどちらも使っていないのを奇異に思う人がいるのも無理のないところでしょう。

全国紙写真部の共有機材はニコンだった

私自身が最初にカメラを買ったのは、もう40年以上前の学生時代でした。キヤノンのAE-1 Program(1981年4月発売)です。卒業して新聞記者となったあとも、New F-1(1981年9月発売)などほかの機種も買い足してキヤノンを使い続けました。

その後、自分から出した人事異動の希望が通って、写真部員になりました。その際にいわれたのは、「部内で用意している共有機材は全部ニコンだ。ごく一部しかいないキヤノン派の部員のために、キヤノンまでそろえる余裕はない。ニコンに変えろ」

まったくの強要でニコンに変えさせられました。

ニコンが報道カメラマンに愛用されたわけ

「プロの使うカメラはニコンかキヤノン」とはいえ、その内訳を見ると、違いがありました。もちろん例外もありますが、「報道関係はニコン、雑誌などはキヤノン」という“すみ分け”があったのです。

「ボディーの頑丈さでニコン、レンズのよさでキヤノン」がすみ分けの理由とされていました。報道カメラマンは事故現場・事件現場にも行くので、どうしてもカメラの扱い方も荒くなりがちです。「ぶつけてもへこみにくい。故障しにくい」は重要でした。

また、「キヤノンは新しい技術が出ると飛びつくように採用する。一方、ニコンは安心して使えるのを待ってから採用する」ともされていました。これも、ニコンが報道カメラマンに好まれる理由になっていました。

電子部品が入りだすと技術開発力のなさが目立ち始めた

ただ、その後を見ると、「『ニコンは安心して使えるのを待ってから採用する』は間違いだったのではないか。単に技術開発力が弱かっただけじゃないか」と思えるようになりました。

オートフォーカスでキヤノンに負ける

やや象徴的にいえば、かつてカメラは、金属とガラス、ギア、バネでできていました。やがて、シャッタースピード優先、露出優先、その組み合わせのプログラムオートなどが採用されるようになり、これらを実現するために電子部品が組み込まれ始めました。私が学生時代に買った、キヤノンのAE-1 Programはその最初期の機種です。

オートフォーカスを本格的に採用し始めたのは、ニコンもキヤノンも1990年ごろです。しかし、まったく違った方式でした。ニコンはカメラボディーの中にモーターを入れ、そこから軸を連結してレンズ内のピント合わせの部品を動かしました。一方、キヤノンはモーターをレンズの中に組み込みました。

ニコンの方式では、レンズごとの最適なモーターを使うわけにはいきません。これは特に望遠レンズで大きな欠点になりました。動かす部品が大きいために、ピントが合うのが遅いのです。

これでニコン派だった多くのプロカメラマンがキヤノンに乗り換えました。ニコンも方針を変え、今ではニコンのレンズもレンズ内モーターになっています。「軍門に下る」というしかない負けっぷりです。

イメージセンサーのフルサイズ化でも後れを取る

ここまではほぼフィルムカメラの時代です。やがて、デジカメが当たり前になりました。そして、ボディー内モーター式のオートフォーカス同様に、ニコンの大きな失敗になったのがイメージセンサーのフルサイズ化でした。

大きいほど有利なイメージセンサー

レンズから入った光を電気信号に変え、データとして転送する部品が「イメージセンサー」です。かつてのフィルムに当たります。

イメージセンサーには、自分のところに当たった光の強弱を記録する「受光素子」というミクロの部品が並んでいます。この受光素子1個分のデータが画素です。「2,000万画素のイメージセンサー」の場合、受光素子が2,000万個並んでいるわけです。

イメージセンサーが大きいと、それだけ数多くの受光素子を並べられます。「画像がち密になる」とお考えください。あるいは、受光素子一個一個を大きくできます。当たる光の量が大きくなるので、強弱も正確に記録できます。「輪郭や色も正確に再現できる」とういことです。

デジタルカメラでいうフルサイズは、このイメージセンサーがかつて最も一般的だったフィルム(35mm判)と同じ大きさのものです。

キヤノンに5年遅れ、ここでもプロカメラマンの支持を失う

前史的な機種を除き、キヤノンもニコンもこのフルサイズを搭載した機種をしばらく出せませんでした。設計・製造が難しかったようです。プロ用とされる最高級機種でも、面積が9分の4しかないAPS-Cが使われていました。

2002年、とうとうキヤノンがフルサイズ機「EOS-1Ds」を出しました。一方、ニコンが初のフルサイズ機「D3」を出したのは5年後の2007年です。やはり、この間にも多くのプロカメラマンがキヤノンへと走りました。

ニコンだけカメラ以外の電子機器部門がない

いささか、後付けのような気もしますが、「なぜ、ニコンはこんなにもキヤノンに負け続けたか」については、こういった理由も聞こえてきます。「キヤノンはもともと事務機器の会社だから、電子部品には慣れている。その蓄積がカメラに転用できた。しかし、カメラ専業のニコンにはそれがない」

これを知ってから、ほかのカメラメーカーを見渡すと、おもしろい点に気が付きます。ソニーは、もちろん電子部品の巨人です。ペンタックス(PENTAX)はカメラブランドとして、そう名乗っているだけで、会社としては事務機器のリコーです。パナソニック(Panasonic)には家電があります。

私が今使っている富士フイルムにしても、事務機器の富士フイルムビジネスイノベーション(旧名、富士ゼロックス)を子会社に持っています。

オリンパス(OLYMPUS)は微妙です。医療機器を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、2020年にカメラを含む映像事業部門は他社に売却されました。今はオリンパス株式会社とは直接のつながりはありません。ブランド名は売却直後は「オリンパス」のままでしたが、2022年にOM SYSTEM(オーエムシステム)に変わりました。

OM SYSTEMの動向が気になるものの、「ほぼニコンだけがカメラの電子部品を孤立無援で開発してきた」といっても、そう大きな間違いにはならないでしょう。

経営判断でも迷走 ミラーレス参入が遅れた

「貧すれば鈍する」なのか、経営判断の悪さも目立ちます。その代表はミラーレスカメラへの参入でしょう。

ミラーレスではソニーが大幅に先行しました。2013年にはもうフルサイズの機種を出しています。キヤノンはまず2012年にAPS-C機を出し、2018年にはフルサイズ機も出しました。

「1型」という小型のイメージセンサーを搭載した機種を除くと、ニコンがミラーレスに参入したのは2018年です。いきなりのフルサイズ機だったとはいえ、ここでも大幅に遅れました。「本格的なミラーレス機を出しても、自社のデジイチ(デジタル一眼レフ)のシェアを食うだけで、社全体の売り上げは伸びない」との判断があったとされています。

日本経済新聞社などは2022年7月、「ニコン、一眼レフカメラ開発から撤退 60年超の歴史に幕」と伝えてました。ニコン自身はこのニュースは否定しているものの、実際のところ、2020年を最後にデジイチの新機種は出ていません。開発もストップしているとされています。「デジイチへのこだわりも、捨てざるをえなかった」といったところでしょう。

キヤノンに大差をつけられ、ソニーも迫っている

2021年の東京オリンピックの取材現場からは、ソニーの躍進ぶりが伝えらえています。

参考:「五輪のカメラに異変 ミラーレスに脚光、「新興勢力」が存在感」(朝日新聞社)

ほかの取材現場からも「最も多いのはキヤノン。ニコンはどんどん減っている」との声も聞かれます。

私自身のことをいえば、2001年に全国紙を退社したあともニコンを使い続けました。しかし、2019年ごろに富士フイルムに切り替えています。イメージセンサーはややこぶりなAPS-Cですが、「これだけイメージセンサーも受光素子も高性能になったら、APS-Cで十分」との判断がありました。ただ、しばらくはニコンのボディーとレンズ、ストロボのワンセットは残していました。「やはり、使い慣れているのはニコンだ。失敗できないときは使おう」と考えたのです。それも3年後に手放しました。

たまには、私自身が気になったり、世間でも話題になったりする機種がニコンからも出ます。しかし、オートフォーカスのときから数えても、40年近くもニコンの失敗を見てきました。私自身がニコンに戻ったり、知人・友人におすすめしたりする気にはどうしてもなれません。

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