カメラボディーのスペックはここをチェック〜雰囲気で選んではいけない
X(旧・Twitter)を見ていると、たまに「デジタル一眼レフかミラーレスのカメラを買おうと思います。どれがいいですか?」といったTweetが流れてきます。
回答する場合もありますが、多くはそのままやり過ごしてしまいます。「押し付けがましいかも」「私の話は長くなりがちだからなぁ。相手も迷惑だろう」とも考えますし、自分が推したメーカーや機種が通らないと悔しい思いもしますので。
今回は文字数の制限もなく、私の独断と偏見でカメラの選び方を紹介しましょう。
目次
最初に見るべきはメーカー名ではなく、イメージセンサーのサイズ
カメラ(カメラボディー)のスペックを見ない人はまったく気がついていないかもしれません。実はデジタル一眼レフやミラーレスのイメージセンサーにはいくつかのサイズがあります。といっても、主要なものは3か4つです。「自分はなにを撮りたいか」「どんなカメラがほしいか」を思い浮かべながら、最初にここで振り分けるのが私のおすすめです。
イメージセンサーのサイズの種類
各カメラメーカーが使っているイメージセンサーをサイズで分けると、次のとおりです。
- ・中判(横43.8ミリ×縦32.9ミリ):ペンタックスと富士フイルムの特別に高級な機種。一般人には無縁
- ・フルサイズ(36×24):ソニー、キヤノン、ニコン、ペンタックスの上位機種。パナソニックも2019年から参入
- ・APS-C(23.6×15.8):ソニー、キヤノン、ニコン、ペンタックスの下位機種。富士フイルムの全機種
- ・マイクロフォーサーズ(17.3×13):OM SYSTEM(オリンパス)の全機種、パナソニックの以前からのラインアップ
イメージセンサーのサイズを重要視するわけ
イメージセンサーのサイズについてはフルサイズを基準に語られるのが一般的です。比較すると、中判は1.7倍、APS-Cは半分弱(4/9)、フォーサーズは4分の1の面積です。
イメージセンサーは受光素子という、「ミクロ」の呼び方ではまだイメージしきれなぐらいの小さな部品が集まってできています。受光素子の役割は、自分のところに当たった光の強弱のデータ取得です。「1画素」はこの受光素子1個分が記録したデータを意味します。よく「2,000画素のカメラ」とか「4,000画素のカメラ」といいますが、それだけの数の受光素子がイメージセンサーに並んでいるわけです。
受光素子1個ずつのサイズが同じならば、イメージセンサー全体の面積が広いと、その分だけ多くの受光素子を並べられます。「ち密な画像が得られる」とご理解ください。
イメージセンサーが広くなっても、画素数を同じままにするならば、1個ずつの受光素子を大きくできます。各受光素子が受ける光の量が大きくなり、強弱も小さな差まで判別が可能です。こちらは「色やコントラストなどが正確に再現できる」に直結します。
もちろん、「受光素子の数とサイズの兼ね合いを考えて、ち密さと正確さを半々に実現する」などを狙うのも可能です。
フルサイズ、APS-C、フォーサーズのメリット・デメリットの比較
「どのサイズのイメージセンサーを選び、どのメーカーの製品にするか」をグループに分けて検討します。グループは「フルサイズ機(ソニー、キヤノン、ニコン、ペンタックス、パナソニック」「APS-C機(ソニー、キヤノン、ニコン、ペンタックス)」「APS-C機(富士フイルム)」「フォーサーズ機(OM SYSTEM、パナソニック)」の4つです。
チェックする項目
どの面に注目して評価するかを先に挙げておきます。
画質
これまで見てきたように、フォーサーズよりもAPS-C、APS-Cよりもフルサイズが画質(ち密さ、色、コントラスト)で有利です。
実際、それまでキヤノンもニコンもAPS-C機しかなかったところへ、キヤノンが2002年にフルサイズ機を発売したら、ニコン派だったプロカメラマンの多くがキヤノン派にくら替えしました。ニコンのフルサイズはそこから5年も遅れたのです。
ただ、それから十数年たっています。受光素子やイメージセンサーの改良も大幅に進みました。「今でもフルサイズでなければならないか」は微妙な話になっています。年々「もうAPS-C機でも十分な画質を持っている」とするカメラ案内の記事も増えてきているようです。
ボディーの大きさと重量
イメージセンサーの4/9や1/4などは面積の話です。カメラボディーの形状が、もし相似形ならば、体積と重量は8/27と1/8になる計算です。
実際には相似形ではないし、ここまで小さくなるわけではありません。しかし、フルサイズ機しか視野に入っていない人がAPS-C機やフォーサーズ機を手にしてみるとボディーもレンズもコンパクトで軽いのに驚くはずです。
被写界深度
「被写界深度を浅くする」は「背景をぼかす」とほぼ同じ意味とお考えください。これはイメージセンサーが大きいほど有利です。
背景をぼかすかどうかは写真表現の重要な要素です。中級者以上は無関心ではいられないでしょう。
値段
値段はフォーサーズ機、APS-C機、フルサイズ機と上がっていきます。今回はカメラボディーの話なので、レンズについてはさっとだけ触れておくと、値段の差はレンズのほうが極端です。
金属やガラスなどの素材が多く必要になるのだけが理由ではありません。ほんの少し大きくなるだけでも、設計が難しくなり、高い加工精度が求められるためです。
グループごとの比較
以上の項目を中心に、各グループごとの比較をします。
フルサイズ機(ソニー、キヤノン、ニコン、ペンタックス、パナソニック)
メリットは画質のよさです。画質について疑念を残したくない人は、フルサイズ機の一択でいいでしょう。
ただ、「撮った写真はネットにアップするのが中心だ。ほとんどプリントにはしない。しても、A4サイズ程度まで」といった人がここまでの画質が必要かどうは疑問の残るところです。言い換えると「モニターで見るのが中心ならば、オーバースペックかもしれない」のです。
もしそうならば、大きい・重い・値段は高いのデメリットばかり残ってしまいます。
APS-C機(ソニー、キヤノン、ニコン、ペンタックス)
「ならば、APS-C機で十分だ」となりそうです。しかし、ソニーやキヤノンなどフルサイズと両方のラインアップを持っているメーカーでは、画質以外の問題があります。
特にニコンで顕著ですが、APS-C機は下位機種扱いなのです。たとえば、ミラーレスのAPS-C機ではイメージセンサーについた汚れをふるい落とすクリーニング機能は省略されています。同様に専用の交換レンズは2024年2月現在、ズームが4本、単焦点が1本の計5本しか用意されていません。
おそらくはフルサイズ機のほうが値段が高い分、利益も上げやすいのでしょう。そちらにばかり力の入るのはメーカーとしては仕方のないところかもしれません。
APS-C機(富士フイルム)
同じAPS-C機でありながら、富士フイルムだけを別グループにしました。富士フイルムはほかのメーカーとは違い、APS-C機を主力のラインアップにしているのが理由です。
かつてのニコンのようにフルサイズ機を展開するだけの技術力・開発力がないわけではなさそうです。その証拠に、フルサイズよりもさらにイメージセンサーの大きい、中判機は商品化しています。
また、主力機種だけあって機能の省略はなく、他社のフルサイズ機並みに充実しています。ズーム、単焦点ともレンズは十分なラインアップです。
マイクロフォーサーズ機(OM SYSTEM、パナソニック)
背景を十分にぼかせないために、私自身は選択肢から外しています。しかし、それが気になるのはある程度の撮影スキルを持った人だけでしょう。
コンパクト・軽い・安いのメリットは十分に魅力があると思います。NHKの『ブラタモリ』を見ていたら、タモリさんがオリンパス(OM SYSTEM)のカメラを持ち歩いていました。「お金がないわけではあるまい。さすがの趣味人だけあって、選ぶカメラも考えたものになっている」と勝手に想像しています。
女性ら重たいカメラを嫌う人には有力な選択肢ではないでしょうか。
また、マイクロフォーサーズの特徴として、メーカー間の規格が統一されています。つまり、OM SYSTEMのレンズをパナソニックのマイクロフォーサーズのカメラボディーにつけたり、その逆をしたりしても問題なく使えます。
デジタル一眼レフとミラーレスはどう違う?
数年前までならば、もう1項目加えなければならなかったのが、「デジイチ(デジタル一眼レフ)にするか、ミラーレスにするか」です。しかし、もう決着はついたと考えていいように思います。迷わずにミラーレスにしましょう。
タイムラグの欠点を克服したミラーレス
デジタル一眼レフは、数枚の鏡を組み合わせて、レンズを通ってきた光景をファインダーの中で見られるようにしたデジカメです。ファインダー内の光景と実際の光景にタイムラグがないために、スポーツカメラマンなど特にシャッターチャンスを大事にする人には、これしか考えられませんでした。
一方のミラーレスでは、レンズを通ってきた光景をいったん電気信号に変え、それをファインダーの中や背面のモニターで再生しています。大げさにいえば、カメラの中で生中継をしているようなものです。
かつては、この再生には無視するのが難しい程度のタイムラグがありました。しかし、すでに改善されています。
ニコンもキヤノンもデジイチの開発はもう止まっている
ニコンとキヤノンはデジイチとミラーレスの両方を出しています。ペンタックスはデジイチだけです。ソニーや富士フイルム、OM SYSTEMなどは最初から、あるいは、何年も前からミラーレス一本です。
22年8月、「ニコンはデジイチの開発から撤退」と日経新聞が報じました。ニコンは「撤退」は否定しているものの、実際に開発は止まっているようです。その時点ですでにキヤノンは撤退していました。
ニコンもキヤノンもあとしばらくはデジイチも現行商品として扱うかもしれません。しかし、もう新製品はでません。イメージセンサーが改良されたり、新しい機能が登場しても搭載されません。おそらくは静かに消えていくのだろうと思います。
唯一残ったデジイチのメーカーはペンタックスです。なにかの理由があって、これからも長くデジイチを使うのならば、ペンタックスで考えるしかないでしょう。
複雑化したブランド名とカメラメーカーの関係
商品を選ぶ際、ブランド名や企業名に対するイメージが決め手になる場合もあるでしょう。おそらくは、カメラも例外ではありません。
実は、企業再編が繰り返されたため、カメラの世界ではブランド名とメーカー名にかなりズレができています。複雑な歴史をたどってきたメーカーをピックアップし、整理しておきます。
・ペンタックス
かつては、「旭光学工業」が自社の製造するカメラに使っていたブランド名が「ペンタックス」でした。その旭光学は2007年にいったんHOYAの子会社になりました。2011年にはそのHOYAがカメラの事業部門をブランド名とともにリコーに譲渡し、現在に至ります。
「今はペンタックスブランドのカメラはどこが作っているか」の問いに対する答えは、「事務機器で知られるリコーが持つ子会社」です。
・ソニー
ソニーが本格的にカメラ部門に進出したのは2006年です。コニカミノルタのカメラ事業部門を買収しました。そのコニカミノルタは2006年に写真用フィルムやカメラを作っていた小西六と、事務機器やカメラを作っていたミノルタが合併してできています。
ですから、1980年に発売され、俳優の宮崎美子さんのCMで話題になった「ミノルタ X7」はソニーのカメラの祖先といえます。
・OM SYSTEM(オリンパス)
オリンパスといえば、内視鏡に代表されるように医療機器のイメージもあります。しかし、カメラブランドとしてのオリンパスは、今は「オリンパス株式会社」とは無関係です。
2020年、オリンパス株式会社のカメラ製造販売部門は別会社化された上で、投資ファンドに売却されました。今は会社としては、「OMデジタルソリューションズ」で、そこがカメラのブランドとしての「オリンパス」を継承しました。しかし、それも終わり、同社は2021年からは「OM SYSTEM」をブランド名としています。
中古カメラなどで今でも「オリンパス」の名前は見かけますが、すでに消滅したブランド名です。
私が選んだのは富士フイルム
ここまでの話で、おわかりいただけるかと思いますが、私は富士フイルムのカメラを高く評価しています。
しばらくは、あまり熱心には写真を撮っていない時期があり、そのころはニコンのAPS-C一眼レフ機1台とズーム1本だけを手元に残していました。しかし、2019年ごろに本格的に写真の仕事も再開すると決めて、富士フイルムのAPS-Cミラーレス機に切り替えました。ニコンには長年に渡る不満があり、カメラメーカーを替えるいいきっかけになりました。
切り替えたカメラもAPS-C機なので、「被写界深度を浅くするのに不利」は指摘したとおりです、しかし、被写界深度はレンズのf値も大きな要素です。f値の小さいレンズ(大口径レンズ)でカバーできます。
結論としては…
・私としてはAPS-Cミラーレス機である富士フイルムをおすすめする
・予算に余裕があり、重さも気にならない。画質に懸念を残したくないならば、ソニーやキヤノンなどのフルサイズミラーレス機がいい
・コンパクトなカメラがいいのならばマイクロフォーサーズ機であるOM SYSTEMやパナソニックも悪くない選択だ
……です。
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