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背景をぼかしたかっこいい写真が撮りたい〜脱・初心者の撮影スキルと機材

水槽の中の稚ゴイ

「この写真、なんかいいな。雰囲気があるな」と思ってじっくりと見たら、背景がしっかりとぼけて、主役が浮き上がってくる写真だったりしないでしょうか。

こういった写真を撮るのに必要な機材は「開放値の小さいレンズ」、理解しないといけない概念は「被写界深度」です。

「手元にあるのは、カメラボディー1台にレンズはズームの1本だけ。カメラ店の店員や友人・知人に勧められるまま買った」といった人たちにすれば、「開放値」も「被写界深度」も初めて聞く言葉かもしれません。これらについて解説します。

背景をぼかすと目線の誘導ができ、主役がはっきりする

まずは、冒頭の写真をご覧ください。ご自身の目線はどこに行きますか?

おそらくは100人が100人とも、中央の金色の稚ゴイに目線が行くでしょう。それも稚ゴイの顔面、さらには目玉ではないでしょうか。ほかの部分もさっとは確認することがあっても、すぐに戻るのは稚ゴイの目玉でしょう。

もう1組、写真を挙げておきます。まずは、右の写真をご覧ください。何体かの石仏が安置されていますが、主役はどの仏様でしょう? 言い換えると、撮影者である私が最も見せたかったのはどの仏様でしょう。おそらくは、「手前の仏様か。そのすぐ後ろにいる仏様か」で迷うのではないでしょうか。

左の写真ならば明確でしょう。最初の稚ゴイの写真と同じく、ボケている部分には視線は長くはとどまっておらず、手前の仏様のお顔を眺めてしまうはずです。

ピントが合っているところとぼけているところを作ることで、見る人の視線を誘導し、何が写真の主役かをはっきりとさせられます。

「ぼかす・ぼかさない」を知るためのキーワード「被写界深度」

ここから先は、シャッタースピードも露出もカメラ任せのオートでしか撮っていない人に向けての話です。

「ピントが合っているように見える」前後の距離は調整できる

先ほどの石仏の写真は右のも左のも同じ位置から、同じカメラ、同じレンズで撮っています。違いがでたのは、「絞り値(F値)」を変えたからです。

この場合の「絞り値」は「レンズの絞り具合」と言い換えていいでしょう。まだ、ピンとこない人もいるかもしれません。「絞り具合」をさらに言い換えるのならば、「レンズに光が入ってくる窓の開け方」です。

後でまたご説明しますが、この「光が入ってくる窓」を狭くすればするほど、ピントが合っているように見える前後の距離が長くなります。

「被写界深度」とは、「ピントが合っているように見える」前後の距離

この前後の距離を写真撮影の用語では、「被写界深度」と呼びます。距離が短ければ「被写界深度が浅い」、逆は「被写界深度が深い」です。先ほどの石仏の写真でいえば、左が「浅い」、右が「深い」です。

ここまでお読みいただいて、少し変な表現があるのにお気づきになった人はいないでしょうか。「ピントが合っているように見える」です。

実は、私も面倒くさくなって「ピントが合っている」と表現する場合も少なくありません。しかし、正確を期すと「ピントが合っているように見える」なのです。

ピントが合う距離は1点しかありません。2メートル先ならば2メートル先、3メートル15センチ先ならば3メートル15センチ先だけです。その前後はいくらくっきりと写っていてもピントは合っておらず、「被写界深度の中に入っている」だけです。

被写界深度は浅くする表現ばかりではなく、意図的に深くする表現もある

浅くするばかりが被写界深度の工夫ではありません。たとえば、背景もぼかしすぎてしまうと、そこになにがあるのかわからなくなってしまい、むだなスペースになってしまう可能性もあります。

また、撮影意図によっては、逆に深くする場合も当たり前にあります。

先ほどの石仏の写真にしても、「1カ所に密集して、同じような石仏が何体も安置されている」を知ってもらいたくて、写真を撮ったとしたらどうでしょうか。右の写真のように被写界深度を深くした撮り方のほうが自然な選択でしょう。

スマホで撮ってスマホで見る人には被写界深度は無縁

このように、被写界深度の調整は「なにを見せたいか」「どう見せたいか」を操るのに有効な手段です。しかし、「写真を撮るのはスマホのカメラ、見るのもスマホの画面」の人たちには関係のない話です。

画面が小さすぎる

まず、スマホの画面は小さすぎて、背景がぼけているかどうかがわかりません。下手をすると、ピントがどこに合っていようがお構いなしです。

実際、「スマホで見たときはまったく問題がないと思った。しかし、たまたまパソコン画面で見たら、すごいピンぼけをしていた」など日常的にあるのではないでしょうか。

これでは、被写界深度など浅かろうが深かろうが関係ありません。

イメージセンサーが小さすぎる

後でご説明しますが、どの程度ぼかせられるかはイメージセンサーのサイズが大きなカギを握っており、大きいほど被写界深度を浅くできます。

スマホで最も一般的に採用されているイメージセンサーのサイズは1/2.3インチで、デジイチやミラーレスの高級機で使われているフルサイズの30分の1ほどの大きさしかありません。ぼかそうとしてもぼかせないのです。

高性能カメラがセールスポイントのスマホのなかには、1型のイメージセンサーを採用しているものもあります。もし、このセンサーをいっぱいいっぱいに使っているのならば、1/2.3型の4倍近い面積になる計算です。しかし、これでもフルサイズとは7、8倍の差があります。しかも、実際には大幅にクロップ(周辺部を余して使う)しているようなので、さらに差はあるようです。

たまに、「カメラはフルサイズ並みの高性能」とアピールしている最高級のスマホも見かけます。しかし、「そりゃいくらなんでも言い過ぎだろ。だって、イメージセンサーが小さすぎる」が正直なところです。

背景のボケ具合を決める3要素

どれだけ大きくぼかせるかは、「絞り値」「イメージセンサーのサイズ」「焦点距離」の3つの要素で決まります。おおまかには「絞り値×イメージセンサーのサイズ×焦点距離」と考えていいでしょう。

絞り値は小さくするほどぼける

使ったレンズはAPS-Cの焦点距離50ミリ(フルサイズ換算75ミリ)で、手前(下)側から赤い線にピントを合わせた。左は被写界深度を最大に深くしたf16 。真ん中は逆に最大に浅くしたf2。右はそれらの中間のf5.6。

先にお話した「レンズに光が入ってくる窓の開け方」を数値にしたのが「絞り値」で、「F2」「F2.8」「F4」「F5.6」といったように表します。撮影時に小さい数字に設定しているときほど、大きく窓を開けているとお考えください。これら4つの値では、ひとつ右に行くごとに窓の直径は√2ずつ小さくなります。開いている面積でいえば半分ずつに減っていきます。

また、最大開けたときの数値が「開放値」です。これはレンズごとに決まっており、小さい開放値まであるレンズ(大口径レンズ)ほどぼかして撮ろうと思えばぼかせます。

イメージセンサーは大きいほどぼける

スマホの写真(右)を先ほどの「APS-Cの焦点距離50ミリのレンズ、絞りはf14」の写真(左)とを比べてみた。ほぼ最大限に絞ったAPS-C機の写真と、被写界深度はほとん差がない。APS-C機ならば被写界深度を浅くもできるが、イメージセンサーが極小のスマホにはこれしかない。

先ほどスマホの話ででてきたように、イメージセンサーが大きいほどぼかせます。

かつてのごく一般的なフィルムと同じ大きさ(35ミリ×24ミリ)の「フルサイズ」のイメージセンサーを基準とすると、「APS-C」は9分の4、「フォーサーズ」は4分の1のしかありません。それだけ、背景をぼかすには不利です。イメージセンサーがごくごく小さいスマホともなると、大げさにいえば、写っているもの全部が被写界深度の範囲内に入っていしまいます。

広角よりも望遠のほうがぼける

24ミリ(フルサイズ換算。APS-C機の場合は1.5倍する。以下同じ)や28ミリの広角よりも、50ミリの標準、さらにはそれよりも85ミリの中望遠、200ミリの望遠の方がぼけます。

「28ミリを使っているから、ぼかすのは困難だ。どうしてもぼかしたければ、(開放値の大きい)ズームではなく、(開放値の小さい)単焦点レンズを使う必要がある」「ポートレートを撮るのに、背景を思い切りぼかしたい。だから、50ミリ標準レンズではなく、85ミリ中望遠を使う」といった覚え方をしておくといいでしょう。

被写界深度の浅い・深いを生かした具体的な撮影例

被写界深度についての知識があり、レンズも開放値の小さいものを持っていれば、撮り方も変わってくるはずです。ここでは、「被写界深度を浅くする例」と「深くする例」を挙げてみます。

被写界深度を浅くする例

ぼかすのは背景ばかりとは限りません。人をアップで撮り、被写界深度を浅くした場合、顔の中でもぼけるところとぼけないところがでてきます。この場合、ピントを合わせるのは、カメラに近い方の目が原則です。

これで人の表情を際立たせたり、“眼力”の強さを印象づけたりできます。

被写界深度を深くする例

ここまで、背景についてばかりぼかす話をしてきました。しかし、被写界深度が広がるのはピントを合わせたところから奥ばかりではなく、手前にも広がっています。比率は奥が2とすると、手前は1です。

10メートル先にピントを合わせたとします。手前の被写界深度の範囲が9メートルから始まるのならば、奥は12メートルまで範囲内に入ります。手前が7.5メートルならば、奥は15メートルです。

この知識が生かせるのは、奥行きがあるものを前から後ろまでしっかりと見せたいときです。

たとえば、学校の記念撮影によくあるように、前後数列になって大人数が並んでいるのを撮るとします。「何列目にピントを合わせたらいいか?」と迷ったりしないでしょうか? あるいは、何も考えずに最前列に合わせていないでしょうか。

仮にこれが4列であれば、前から2列目にピントに合わせるのが正解です。手前には1列、奥には2列、人が並んでいますので。こうした上でレンズを絞れば、1列目の人も4列目の人も同じように被写界深度の中に収められます。

初心者の足かせになる、始めたときに買った標準ズームレンズキット

すでにお話したように、浅い被写界深度まで使いこなすには、開放値の小さいレンズが必要です。

しかし、初心者の多くが手にしているカメラボディーとレンズは、いわゆる「標準ズームレンズキット」です。つまり、「エントリークラス」と呼ばれる下位のカメラボディーと、焦点距離がフルサイズ換算の24ミリ程度から70ミリ程度のズームレンズの組み合わせです。

こういった組み合わせでのズームレンズのf値は、広角側で3.5程度、望遠側では6程度がよくあるパターンです。広角側はもともと被写界深度を浅くしにくいのは、すでにお話ししたとおりです。望遠側のf6はスマホほど極端ではありませんが、背景をぼかすには力不足です。

ここでの詳細は話は避けますが、カメラボディーもイメージセンサーが小さめの機種が組み合わされています。

つまり、初心者が被写界深度の世界まで踏み込むには、何でもかんでもカメラ任せのオートから脱却して、絞り値を自分で決めるだけでは無理です。使うカメラボディーやレンズから見直さなければいけません。

ここで、カメラボディーやレンズを新しいものに替えられるかどうかは、ずっと初心者のままでいるか、中級者への一歩を踏み出すかの分かれ道になるのだろうと思います。

ボカシやすいボカシにくい(スマホを含む) (焦点距離を含む)
同じ焦点距離で使う限り、背景のぼかしやすさは「イメージセンサーのサイズ」と「レンズのタイプ」のかけ合わせで決まる。初心者がもっともよく使っているのは、「APS-C」と「一般的なズーム」で、12通りある組み合わせのうち、下から2番目に当たる。

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