SNSしか知らないライターや編集者がクオリティーを下げる、Web記事の写真
X(旧・Twitter)やInstagramといったSNSで求められる写真と、企業やお店のホームページで求められる写真は性格が違います。例外もあるかもしれませんが、SNSのものは数日話題になって盛り上がれば十分でしょう。一方、ホームページのものは長く見てもらわなければいけません。当然、必要な品質も違います。今回は、それがわかっていない人たちが作ったオウンドメディア(自社で運営するホームページ)の話です。
目次
全国紙のオウンドメディアなのに、ひどい写真ばかり
2年ほど前、ある全国紙のオウンドメディアのために、カメラマンとしてインタビュー写真を撮りました。相手は大阪の繁華街にあるヘアサロンの経営者です。間には業者が入っていました。
取材をした相手自身に写真を選ばせる
私としては掲載されるのをいつも以上に楽しみに待っていました。その経営者は女性で、さすがに美容の専門家らしくおしゃれで、それが十分に表現できたと思ったのです。自信作でした。
かなりたってから、その人からメールで連絡が来ました。「(業者の)ディレクターから、『写真を選んでください』といってきました。どうしましょう」
こういったことは初めてだったので、私も話を理解するのに時間がかかりました。
まったくレタッチしていない写真まで取材相手に丸投げ
記事に使用するのは3枚の予定でした。それを「念のために、余分も含めて」と6枚選んで、レタッチして納品しました。
業者からは事前に「30枚ほど送ってくれ」との話もあったので、撮って出し(まったくレタッチしていない状態)を20枚ほどつけました。
その業者は、私が選んだ6枚に、撮って出しの20枚をつけて、そのまま取材相手に投げたのでした。
知らないらしい、「写真は、選んで、レタッチして完成する」
仕事レベルで使う写真は撮って終わりではありません。一連のコマの中から、その記事にふさわしいものを選び、さらにそれをレタッチします。
いくら撮るときに注意をしていても、たいていは上下左右に余分なスペースが出ます。それはトリミング(カット)しなければいけません。また、画面のなかで白飛び(露出オーバーで真っ白)や黒つぶれ(露出アンダーで真っ黒)といった部分があれば、そこだけ明暗を変えもします。どれだけ高性能なカメラでも、自然な発色をするとは限りません。それも調整します。これらが「レタッチ」です。
このコマ選びとレタッチをして、初めて写真は完成します。また、これらをできないとプロのカメラマンとはいえません。
「スマホで撮ってSNSにアップ」との違いがわからない?
いくら取材を受けた本人とはいえ、本来はプロがやるコマ選びを任せてしまったのです。「本人が選んだのならば、掲載したあとから文句も出まい」といった思惑もあったのではないかと想像しています。
また、選ばせたあとのコマもまったくレタッチなしで掲載するようでした。というのは、先に出ていたほかの記事の写真は、どれもレタッチの形跡のないひどいものでしたので。
「いったい、なんのつもりか?」と考えて、思い当たりました。おそらくは、SNSの世界しか知らないのです。「『スマホで撮って、XやInstagramにアップする』が写真について知っている全部」と考えるしかありません。
「ディレクター」などと名乗ってもまったくの素人
結局、取材相手には「私(取材相手)が選びました」として、最初の納品時に選び、レタッチもしてあったものを出し直してもらいました。
ここまでお読みいただいた方の多くは、「極端な例を語っている」と思われたでしょう。しかし、Webの世界では編集者やライター、さらにはカメラマンと名乗っていても、この「スマホで撮って……」式にやる人は決して珍しくありません。
たとえば、Webライターのプロフィルを見ると、「カメラを持っているので写真も撮れます」とアピールする人がいくらでいます。スキルについてはまったく気にしていないのです。実際にそういった「ついでのカメラマン」が撮った写真がWeb記事には当たり前に使われています。
また、Webメディアは簡単に立ち上げることができ、いくらでも安く引き受ける原稿代行業者がいます。ホームページ代行業も参入は簡単です。
このときの業者もやっていることをあえていえば、ホームページ代行でした。しかし、後で調べてみると、本業は広告代行で、ディレクターも文章・写真の経験はまったくないようでした。
エンドクライアントである全国紙もチェックできず
このとき、もうひとつ複雑な気分にさせられたのは、エンドクライアント(大元の依頼者)の全国紙です。
新聞社のなかで、「全国紙」と呼ばれるのは5つしかありません。そこは歴史もあり、かつては堂々の大メディアでした。それが、「しょぼい」と呼ぶしかないようなオウンドメディアをやっていたのです。
写真のクオリティーはここまで説明したとおりですし、そもそもなんの目的でやっているホームページかはわかりませんでした。広告は申し訳程度に2個ほど入っているだけです。新聞購読のための申し込み欄もありませんでした。
記事も、人物を取り上げたり、海外の記事の翻訳が入っていたり、それも欄をしっかりと分けずにです。
おそらくは、「本来は活字メディアの新聞社といえども、ネットの世界は無視できない」と後手後手に回ったところから、あわてて始めたのでしょう。
そうであっても、歴史のある新聞社なりに蓄積したノウハウもどこかに生かすのもいくらかは考えてもよさそうです、カメラマンもいれば編集者や記者もいますので。
しかし、あの作りの雑さから考えて、「にわか仕立てのホームページ代行業者に丸投げし、チェックもろくにしていなかった」としか考えられません。
あなたのホームページでもSNSしか知らないライターや編集者に当たるかもしれない
ホームページ制作業者の大半は、文章や写真までカバーできません。依頼主自身で、原稿代行業者などを手配する必要があります。あるいは、制作業者で手配してくれるかもしれませんが、それも外注であることは変わりません。自社でやっているところもないわけではありませんが、私が知っているところは素人レベルでした。
つまり、ホームページ制作会社や原稿代行業者をしっかりと選び、その上で、やっていることもチェックしない・できないでは、この全国紙と同じ羽目になる可能性があります。
私が1回だけかかわってから、1年ほどのち、そのオウンドメディアは閉鎖していました。2年やそこらの運営だったようです。おそらくは運営中にはなんら業績へのプラスはなく、丸投げのせいで今後に生かせる経験にもならなかっただろうと思います。
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