雑踏の写真で人の顔は安直にぼかさない〜ホームページの価値を損ねる
新聞ではほとんど見かけないのに、Webメディアやここ最近のテレビでは当たり前に見かけるものがあります。雑踏のなかにいる人をぼかした写真や映像です。
プライバシーや肖像権を気にしてのようですが、実は大半の場合で必要ありません。法にも触れません。おそらくは、「よくわからないから、念には念を入れてやっている」ぐらいのところでしょう。「自分たちの仕事内容がよくわかっていないメディアが横行している」の証左のとひつと考えてよさそうです。
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ぼかしをかけた写真なんぞ、使いたくないし、見たくない
もし、あなた自身が写された側にいて、全身、あるいは顔周辺だけぼかしをかけられたらどうでしょう。もちろんTPOにもよりますが、私だったら通常は「何も悪いことをしているわけではないのに、なぜ隠されなければいけないのか」と考えそうな気がします。
また、その写真や映像を見る側になったときに、どう感じるでしょうか。もちろん、「感じ方」なので、個人差はあるでしょう。これも「私だったら……」で考えてみます。画面の一部がもやもやになったものを見ると「気色悪い写真、気分の悪い写真」が最初に思いつく言葉です。鑑賞物としても情報としても、価値を損ねています。
通りがかりの人が写ったからといって、「プライバシー」と「肖像権」は侵害していない
新聞で無意味にぼかしを入れた写真を見かけないのは、過去の教育がまだ残っているのでしょう。一方、テレビとWebメディアがぼかしを入れたがるのは、おおよそのところ「プライバシーの侵害・肖像権の侵害を避けるため」のようです。
「プライバシーがバレるのに手を貸してしまった」=「プライバシーの侵害」……ではない
確かに、新聞・雑誌、テレビ、Webメディアなどに写されたために、「○○と一緒に歩いていた」「○○の時間には○○にいたらしい」と家族や会社の人に知られてしまう人もいるかもしれません。「そのせいで、浮気がバレた」「仕事をサボっていたのを、上司が気がついた」もないとはいえないでしょう。
しかし、これらをもって、「プライバシーが侵害された」と言い立てるのには無理があります。
特別な撮影方法もしていないのに、写り込んでいるぐらいならば、周囲の人の目にも入っています。こちらでも、浮気やサボりがバレる可能性はあります。テレビやWebメディアなどを通して見られてしまうか、肉眼で見られてしまうかだけの違いです。
「浮気をしている」「会社をサボった」は、これをプライバシーと呼ぶかどうかは微妙なものの、たしかに個人の情報ではあるでしょう。しかし、人目につくところでやっているのだから、ご本人も情報を守ろうとはしていません。守ろうといしていないのですから、これら情報が知られるのに手を貸すことになってしまっても「侵害」とはなりません。
「写真のなかで、人の顔が写っている」=「肖像権の侵害」……でもない
顔などにぼかしを入れる理由のもう一つは、「肖像権の侵害」でしょう。
実際に、私がカメラマンとして撮り、納品した京都・清水寺参道の人込みの写真に勝手にぼかしを入れたWebメディアの編集者もいました。彼らにすると、「目・鼻・口など、それが顔であるとわかれば、もうアウト」でした。
しかし、これは間違いです。
不可=特定の人物を狙って、写真の主題となるように撮る
可=風景の一部として写り込む
問題になった写真には何百人も写っていて、そのうちのだれかを大写しにしたものでもありません。
業者任せにしてはいけない、依頼主にも不可欠 写真の法律の知識
プライバシーや肖像権、さらに著作権の知識は、メディアやホームページの仕事やる上で欠かせません。本来は制作業者やライター、カメラマンが心得ておけばよさそうなものです。しかし、現実にはそうなっていません。
ホームページ制作だけではなく、アウトソーシング(外注)一般に言えることですが、丸投げはやめておきましょう。肖像権などについても、依頼主も一通りの知識は持っておきましょう。そうしないと、制作業者などがどんないい加減なことをやっていても、チェックできません。気が付きません。
この方面の知識を得るのにおすすめの本を一冊挙げておきます。
ぼかしを入れるのは、ホームページやメディアを大事に考えていない証拠
人の顔にぼかしを入れるのに、「念には念を入れてだ。トラブルを避けるのに用心に越したことはない」と考える人もいるかもしれません。
しかし、新聞やWebメディア、ホームページに掲載される写真は「状況によっては一瞬にして大量の情報を伝え、しかも、強く印象に残させる強力な手段」です。安直な判断で、わざわざ手を加えてその手段をを損ねるべきではありません。
ぼかしを入れた不格好な写真を使って平気なのは、「カメラマンやライター、編集者、制作業者などが、自分たちがかかわったホームページなどにちゃんと命を吹き込もうとはしていない」と疑っていいのではないでしょうか。
参考:『感動場面で全員モザイクも テレビ業界の悩ましい事情』(産経新聞社)
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