ホームページ制作の見積書【中編】〜“ほぼ実物”をもとにチェック方法を解説
前編で、ホームページ制作の見積書(請求書)は、……
- 自動車でいえば「車台:70万円、エンジン:80万円、外装・内装:50万円、タイヤ:3万円✕4」となっているようなおかしなのものである
- ホームページ制作の作業は多岐にわたり、大半が下請け任せである。項目を細分化してるのは、制作業者にとって下請けへの支払い計算をしやすくするためでもある
……との話をしました。
この中編では見積書を読み解いて、「なぜ、このような項目が設定されているのか」「気をつけるべき点はなにか」を考えてみます。
目次
見積書にある項目の意味、注意点
「見積書」は2種類用意しました。「トップページ+仮想ページ×5」の全6ページを想定しています。「必要最小限のサイズ」とお考えください。
いずれも架空のものですが、私の方で「実際にあってもおかしくない」と考えるものです。もし、すでに見積書を手にしてるのならば、比較してもらえば、自身の見積書への理解も深まると信じています。
パターン1 「50万円クラス」のホームページの場合
一見して、まず気がつくのは「ディレクション料」がない点です。ディレクションとは「プロジェクト全体の管理・進行」のことです。いわば「司令塔がない」状態で、本当はないとホームページ制作は進みません。
これは全体額を安く見せるための工夫です。あるいは、「“ディレクション”といえるほどのことをやっていないので、料金を請求するのも遠慮してしまう」もあるかもしれません。それでも、「依頼主にしたら、ちゃんとしたもの見える」ものができてしまうのが、ホームページ制作の怖いところです。
また、「コンテンツ制作(文章執筆・写真撮影)」もありません。むしろ、これが当たり前です。文章や写真は依頼主自身が書いたり撮ったりします。でなかったら、ライターやカメラマンを依頼主自身が別に手配します。
【企画・設計】
- ヒアリング・企画書作成:早い話が「打ち合わせ」です。
【デザイン】
- トップページデザイン:いわば「ホームページの顔」といった部分です。デザインもほかのページよりも凝ったものになり、値段も高くなります。
- 下層ページデザイン:トップページの逆です。しかし、本来ならば「内容(文章・写真)で勝負」となるところなのですが……
- レスポンシブ対応デザイン:スマホやタブレットでは画面幅が限られます。これに合わせたデザインも必要になるので、別に料金を設定しています。
【コーディング】
- HTML/CSSコーディング:Webデザインや文章はそのままではパソコンに表示できません。Google ChromeやFirefoxといったブラウザが読み取れる形式に変換する作業です。
- JavaScript実装:ホームページに動きを付けるための仕組みがJavaScriptです。画像スライドショー、スクロール時のアニメーション、お問い合わせフォームの入力チェックなどに使われます。特に「スクロール時のアニメーション」などは画面が派手になるので“素人受け”します。ただ、情報量が増えるわけではありません。内容重視の場合は、多用してよいかどうか迷うところです。
- CMS構築:CMSとはWordPressなどのことです。HTML/CSSコーディングで作った「ブラウザが読み取れる形式」をネット上で保管・管理します。みんなが見ているブラウザもここから情報を取り出して表示しています。そのためには「ブラウザが読み取れる形式」をWordPressなどへ移すのが必要で、この作業がCMS構築です。
【システム・サーバー】
- ドメイン取得費:ドメインとは、ホームページの住所にあたるような名前のことです。今ご覧いただいている私のサイトならば、「https://atelier-pentad.com/」がURLで、このうちの「atelier-pentad.com」がドメインです。この名前を取得して、自分専用として登録するための費用がドメイン取得費です。
- サーバー設定費:あなたのホームページのデザイン・文章・写真を保存しておく場所が必要です。通常はサーバーと呼ばれる外部の大型コンピューターをレンタルします。といっても、レンタルするのはサーバーのごく一部です。このレンタルの手続きに必要なのが、サーバー設定費です。
- SSL証明書導入:URLを「http://」から「https://」に変える設定です。閲覧者(訪問者)とサーバー間の通信が暗号化され、個人情報を安全に送信できます。無料のものと有料のものがあり、有料版は企業の実在を証明する機能も付いています。検索順位にも影響します。
※ 注意:「ドメイン」「サーバー」「SSL証明書」を利用するための支払い先は、ホームページ制作業者ではなく、ドメイン管理会社やサーバー会社です。見積書に記載されているのは設定・導入の作業費用で、依頼主にはこのほかに毎年または毎月の継続費用(更新料)がかかります。
【SEO・運用】
- SEOとは「検索エンジン最適化」のことで、GoogleやYahoo!で検索したときに上位に表示されやすくする施策です。キーワード設定やメタタグ最適化は、その基本的な設定作業になります。
※ 注意:私(ペンタ工房)自身がホームページ制作業者の大半をうさん臭く見ているのはこのSEOが最大の原因です。「これだけで検索順位が上がるわけではなく、コンテンツ(文章や写真)の質が左右する。にもかかわらず、業者の大半はコンテンツは依頼主まかせ」「SEOの効果が判明するのに3カ月や半年はかかる。ホームページを公開すれば終わりでは、責任を持ったことはだれもいえないはず」「制作業者自身のホームページをチェックすると、ほとんどのところで『基本的な設定作業』さえできていない」
- 運用マニュアル作成:ホームページ完成後、依頼主が自分で記事の追加・写真の差し替え・お知らせの更新などを行うための手順書です。が、多分に形式的なものでしかありません。実際には使いこなせず、別途サポートが必要になるのがほとんどです。
※ 注意:「激安」や「全部おまかせ」といった具合に費用や手間を惜しんだホームページ制作を依頼すると後悔するかもしれません。こういった業者の多くはホームページを“育てる”のには興味はなく、また、そのノウハウもありません。「使い捨てのホームページに手を出した」と割り切るしかないでしょう。
【そのほか】
- 打ち合わせ費:最初に挙げた「ヒアリング・企画書作成」も事実上の打ち合わせです。ここでも計上しているのは、「足を運んだ分の手間賃」といったところでしょう。近年はZoomなどリモートで済ませることも多くなりました(私自身は現場を見て、理解するのは絶対に必要だと思いますが)。「その場合はどうするのか」はあいまいなところです。
- 交通費:「打ち合わせ」に足を運んだ場合の実費です。
パターン2 「100万円超クラス」のホームページの場合
見積書の2例目です。ほとんどの項目は1例目で説明が済みました。ここでは、1例目との違いを中心に話を進めます。
その「違い」とは「コンテンツ制作の費用が挙げられている」「ディレクション料が挙げられている」「1例目と共通する項目はいずれも料金が高い」です。
コンテンツ制作の費用が挙げられている
コンテンツ(文章・写真)までカバーするホームページ制作業者は多くありません。しかし、たまにライターやカメラマンの手配を代行してくれるところがあります。
気をつけなければいけないのは、あくまで「手配を代行」である点です。少々大手でも社内にプロのライターやプロのカメラマンを置いていることはありません。フリーランスに声を掛けるか、「原稿代行業者」に丸投げするだけです。でなければ、社内の素人スタッフが見よう見まねで担当します。
この中編の冒頭で断ったように、この見積書はあくまで架空のものです。しかし、現実にあり得る金額などを想定しています。
全国紙写真部員も経験した私(ペンタ工房)からいわせてもらうと……
- 写真撮影 商品・人物撮影(1日) ¥80,000
- ライティング サイト内テキスト作成 ¥60,000
……は手抜き気味です。
「商品・人物撮影(1日)」は「建物外観・内観、社長ポートレート、社員集合写真、商品・サービスをいっぺんに撮影してしまう」ということでしょう。通常の取材の、相手とじっくり向き合う写真撮影とは違います。
より大きな問題がライティング の「¥60,000」です。「トップページ+下層5ページ」で考えているホームページです。1ページあたり1万円しかかかっていません。制作業者が中間マージンもとるので、ライターに渡る金額は8,000円前後でしょう。
これは「こたつ原稿」の金額です。つまり、「現場には足を運ばずに、こたつに当たりながらネットの情報で書く原稿」です。
「こんな作り方で、あなたの会社やお店の魅力が伝わるホームページができるか」は考えてみる必要がありそうです。
ディレクション料が挙げられている
1例目では隠されていたディレクション料が挙げられています。「プロジェクト全体の管理・進行をする司令塔がいるので、こちらのほうが安心だ」と思った方もいるかもしれません。しかし、「どういった人がディレクターをやるか」が問題です。(実は1例目も同じで、「どういった人が“事実上の”ディレクターをやるか」は大問題です)
ホームページ制作会社を始める人のほとんどが、もとはWebデザイナーやコーダーです。SEOだけではなく、文章や写真は素人です。
中には、制作会社を始めるに当たって事務所を持ち、新人を採用する場合もあります。右も左もわからない新人をいきなりディレクターに起用する例もありました。Webデザイナーやコーダーならば、少なくとも数カ月は勉強しないとまともに使えません。しかし、「ディレクターの肩書にしておけば、メールが打て、電話のやり取りができれば格好が付く」とでも思うのでしょうか。
結果が、前編にあるように「ディレクションできてないディレクターが多すぎる」といったことになります。
制作の依頼を検討している人には、契約を結ぶ前に「どういった人が担当のディレクターで、頼りになるかどうか」のチェックは欠かせません。
1例目と共通する項目はいずれも料金が高い
1例目と比べると、いずれの項目も2例目のほうが高くなっています。「トップページデザイン」は80,000円が120,000円、「HTML/CSSコーディング」は120,000円が180,000円といった具合です。
1例目には「コンテンツ制作」の140,000円がありませんが、この分を差し引いても合計金額は倍ほど違います。
依頼を検討している人にしたら、「2例目のほうが制作のための体制を整えている。外注するフリーランスのWebデザイナーやコーダーもスキルの高い人を確保しているのだろう」と思いたくなるところかもしれません。
これが、正解の場合も不正解の場合もあります。
たとえば、1例目は「やっているのは個人事業主で、自宅にパソコンと電話を置いて仕事をしている」かもしれません。
これに対し、2例目が「事業を法人化した。事務所も構え、事務員などのスタッフも抱えている」だったらどうでしょう。事務所の賃貸料・スタッフの人件費は各項目に上乗せしないとやっていけません。
こういった事情で、もしかしたら「1例目も2例目も、使っているフリーランスのレベルは同じ。制作業者としての実力も変わらない」可能性も十分にあります。
支払金額のうち制作業者の取り分は半分ほど?
中編の最後に「あなたが支払ったお金は一体だれがどの程度受け取っているのか」をざっくり計算しておきます。その数字次第で、料金を高く感じたり安く感じたりするでしょう。
制作業者(制作会社)によって、どこまでを下請けに回すかは異なります。たとえば、Webデザイナー出身の制作業者ならば「自分でWebデザインだけはやってしまう」も考えられなくもありません。
しかし、ここでは「業者自身は営業とディレクションに徹している。Webデザインとコーディングは外注のフリーランスに任せる」で考えてみます。
制作料50万円ならば、業者自身の取り分は半分強
まず、「50万円クラス」の場合です。
【企画・設計】
50,000円:全額、業者の取り分
【デザイン】(ディレクション料を挙げていないので、中間マージンは高めの3割で計算)
61,500円:(80,000+75,000+50,000)✕0.3
【コーディング】(同)
67,500円:(120,000+35,000+70,000)✕0.3
【システム・サーバー】
38,200円:1,200+25,000+12,000 全額、業者の取り分
【SEO・運用】
48,000円:30,000+18,000 全額、業者の取り分
【その他】(交通費は実費)
15,000円
合計は280,200円となりました。
つまり、「制作業者が50万円と見積もりを出してきた場合、制作業者自身の取り分はその半分強」です。
制作料100万円強でも、業者自身の取り分は半分程度
「100万円超クラス」も同様に計算してみます。
【企画・ディレクション】
230,000円:150,000+80,000 全額、業者の取り分
【デザイン】(ディレクション料が別にあるので、中間マージンは2割で計算)
60,000円:(120,000+100,000+80,000)✕0.2
【コーディング】(同)
72,000円:(180,000+60,000+120,000)✕0.2
【システム・サーバー】
46,200円:1,200+30,000+15,000 全額、業者の取り分
【コンテンツ制作】(同)
28,000円:(80,000+60,000 )✕0.2
【SEO・運用】
60,000円:40,000+20,000 全額、業者の取り分
【その他】(交通費は実費)
30,000円
合計は526,200円となりました。やはり、半分をいくらか超える程度です。
この場合は、通常はない「コンテンツ制作」が含まれています。その分を引くと、依頼主の支払いは約1,000,000円で、業者の取り分は約500,000円です。大きくは変わりません。
このように、ホームページ制作の値段は複雑な事情が絡んでいます。「後編」ではその値段の決まり方を解説します。
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